はじめに:発売前でも、権利は先取りできる
製品デザインを守りたい一方で、発売までは情報を伏せておきたい――そんな場面で使えるのが「秘密意匠」です。通常、登録後は意匠公報で公開されますが、秘密意匠を請求すると最長3年間、登録意匠を非公開にできます。競合に先読みされず、発表タイミングをコントロールできるのが最大の利点です。
秘密意匠とは(制度の要点)
- 対象:登録された意匠(出願段階ではなく、登録段階の意匠)
- 請求のタイミング:出願時または設定登録料の納付時まで(それ以降の後出しは不可)
- 非公開期間:登録日から最長3年(期間満了後は自動的に公開、期間の変更は可能だが注意点あり)
- 権利の効力:非公開期間中も登録の効力は有効(差止請求・警告等は可能)
- 登録証:原則、公開時に交付(実務上は交付が遅れる点に注意)
どんな場面で有効か(活用シナリオ)
- 発売日のインパクト重視:家電・化粧品容器・ファッション等、外観が競争力の源泉となる場合。
- 展示会に合わせた公開:展示当日までは非公開にし、発表と同時に公開へ切り替えたい場合。
- プロダクトラインの伏せ:シリーズ展開(基本形+派生形)を読まれたくない場合。
手続の流れ(シンプル版)
- 意匠出願(必要に応じて部分意匠・関連意匠・組物意匠も同時に設計)
- 審査・登録
- 秘密意匠の請求(出願時 or 設定登録料納付時)
- 登録後、意匠内容は非公開(最大3年)
- 期間満了で自動公開(必要に応じて発表タイミングと整合)
実務チェックリスト
- □ 秘密にしたい意匠(基本・派生・部分など)を整理しておく
- □ 秘密請求のタイミングを出願時点で決定しておく
- □ 非公開期間の終了時期と発売・発表スケジュールを調整する
- □ 社外への情報漏えいを防ぐため、資料・SNSの運用を確認する
- □ 関連意匠や部分意匠を併用して、権利の範囲を広げる
わかりやすい事例(化粧品ボトルの新シリーズ)
化粧品メーカーA社は、来春リリース予定の新シリーズを開発中。競合に読まれないよう、試作品段階で基本意匠+関連意匠を出願し、秘密意匠を請求。発売に合わせて公開されるよう期間を設定した結果、発表と同時にデザインを市場投入でき、競合の模倣や早期対抗を抑制できました。さらに、部分意匠(特徴的な肩部・底面)を併用して、派生品にも効く権利の層を確保しています。
よくある落とし穴(FAQではなく注意点の列挙)
- 後からの秘密請求は不可:登録後に「やはり秘密に」はできません。出願設計段階で意思決定を。
- 社内・取引先からの漏洩:非公開は公報内の図面を非公開にする制度。社外資料・SNSでの先出しに要注意。
- 抵触関係の見えにくさ:他社からも内容が見えないため、自社内の台帳管理と期限管理を厳格に。
- 登録証のタイムラグ:対外説明資料の段取り(入札・認証等)に影響することがあるため、スケジュール設計を。
戦略メモ:公開タイミングを“経営計画”と同期させる
秘密意匠は、法務だけでなく販促・広報・生産計画とセットで意思決定することで価値が最大化します。派生モデルを視野に、基本+関連+部分という多層設計を行い、公開日・発売日・展示会日程を一枚のタイムラインで管理するのがコツです。
ミレニア弁理士法人では、秘密意匠の活用設計(基本・関連・部分の最適組合せ、公開時期の設計、社内統制のテンプレ整備)まで一気通貫で支援します。
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