組成物の発明では、成分の選択や比率、構造、相互作用など多くの要素が関係します。 そのため、出願内容の記載で特許の強さが大きく変わります。
特に化学・材料系の組成物の発明では、「進歩性があるか」「技術的に裏付けられているか」が重要です。 この記事では、広く強い特許を得るための5つの実務ポイントを紹介します。
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1.先行技術調査で差別化ポイントを見つける
最初のステップは、先行技術の調査です。 特許文献や論文を確認し、新しい組成物との違いを整理します。
組成物 発明 特許では、構成成分が既知であることも多いです。 このため、どの成分を選ぶか、どの比率で配合するかが差別化点になります。
先行技術との差が分かると、次の点が見えてきます。
・本質的な特徴はどこか。
・どの範囲を広く請求するか。
・どこが根拠不足になりやすいか。
クレーム案を初期段階で考えておくと、実験計画も立てやすくなります。
2.比較例を設計し、実施例を充実させる
(A)比較例の再現が進歩性の鍵
比較例は、進歩性を主張するうえで非常に有効です。 できれば、先行技術をそのまま比較例として再現します。 こうすることで、発明の優位性を明確に示せます。
(B)実施例を複数用意する
広い権利を狙うなら、実施例の数が重要です。 例えば、上位概念を請求項に書き、下位概念を複数の実施例として示す方法があります。 これにより、広いクレームをしっかりサポートできます。
含有量が重要な場合は、数値範囲の技術的意義を示す必要があります。 下限値や上限値の根拠があると、補正にも強くなります。
(C)測定条件を明確に記載する
粘度、粒径、分子量、ガラス転移温度などの数値は、測定条件で変化します。 温度やせん断速度が変われば、同じ試料でも異なる結果になります。
次の条件は明記しておくと安心です。
・使用装置
・温度
・雰囲気
・せん断速度や回転数
・測定時間
再現性を説明しやすくなり、審査、裁判でも強い材料になります。
3.成分同士の相互作用と顕著な効果を示す
組成物は、単一成分ではなく、組み合わせによる相互作用が特徴です。 この相互作用は、進歩性の判断で有利になります。
例えば次のようなケースがあります。
・特定の界面活性剤と高分子の組合せで粒径分布が狭くなる。
・その結果、長期安定性が向上する。
構成と効果の関係を具体的に書くと、審査官も理解しやすくなります。 顕著な効果がある場合は、可能な範囲で作用機序も説明します。
4.当たり前に見える配合でもパラメータ化で差別化できる
成分が既知であることが多い組成物には、「ありふれた配合」に見える場合があります。 しかし、比・補正係数などをパラメータ化すると、先行技術との差が明確になります。
例えば次のような例があります。
・A/B比が特定範囲のときだけ性能が向上する。
・粘度×粒径比が一定以上で安定性が改善する。
実験結果を比率やグラフで見直すと、新しい技術的意義が見えることも多いです。
5.パラメータを使う組成物発明は裁判例に学ぶ
(A)偏光フィルム事件のポイント
知財高裁大合議「偏光フィルムの製造法」事件は、パラメータ発明を考えるうえで重要な事例です。 サポート要件との関係を理解するためにも、よく引用されます。
この事件では、パラメータを数式で規定した発明が問題になりました。 明細書に記載された具体例は、2つの実施例と2つの比較例だけでした。
このため、数値範囲全体で効果が得られるとは当業者に理解できないと判断されました。 結果として、サポート要件違反が認定されています。
判決全文は次のリンクから確認できます。
知財高裁大合議「偏光フィルムの製造法」事件 判決全文(PDF)
(B)出願後データでは補えないことがある
この事件では、出願後のデータで明細書を補うことは認められませんでした。 出願時点で、効果の裏付けが必要だという判断です。
「とりあえず広い範囲を書き、あとでデータを足す」という方法には限界があります。
(C)組成物 発明 特許への実務的示唆
この事件は、次の点を示しています。
・広い数値範囲だけでは不十分。
・範囲全体で効果が得られることを示す必要がある。
・出願後データはサポート要件を補えない場合がある。
成分比・粒径比・粘度比・分子量分布などをクレームに使う場合は、出願前から実施例・比較例の準備が必要です。
まとめ:組成物 発明 特許を強くするために
組成物 発明 特許を強くするためのポイントは次の5つです。
1.先行技術調査で差別化ポイントを見つける。
2.比較例と実施例を計画的に設計する。
3.相互作用と顕著な効果を示す。
4.パラメータ化で差別化する。
5.裁判例に学び、サポート要件を満たす。
これらを準備することで、広く強い特許に近づきます。 出願前から、技術的意味付けや数値範囲の根拠を意識することが大切です。
ミレニア弁理士法人では、化学・材料・化粧品・食品などの組成物 発明 特許を中心にサポートしています。 実験計画の段階から「どのパラメータを採用すべきか」「比較例をどう設計するか」といった実務的な相談も承ります。
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