自分の商品が本物なのに・・・
1. はじめに ― ECサイトと商標登録トラブルの増加
ECサイトを利用した個人や小規模事業者のビジネスが急速に拡大しています。教育教材、健康グッズ、オリジナル雑貨など、アイデアさえあればすぐに商品化・販売が可能です。
しかし「売れ始めたとき」に起きやすいのが、商標権に関するトラブルです。商標を登録していなかったために人気商品を奪わる事態になりかねません。
2. よくある商標登録トラブルの実例(ECサイト)
ある事業者の商品(例えば、教育教材、健康グッズ、オリジナル雑貨等)が口コミやSNSで話題になり、ECサイトで人気商品となりました。ところが、その事業者は商品のネーミングを商標登録していない。
そこに目を付けた第三者が、同じネーミングで商標を出願・登録。さらに、模倣品を出品しはじめる。結果として、元々の商品を販売していた事業者が逆に「商標権侵害」として警告・販売停止を受けるという事態です。
3. 商標制度の基本 ― 先に登録した人が強い
このような事態がなぜ起こるのでしょうか。
日本の商標制度は、**「先願主義」が原則です。つまり、商標を「先に使っていたかどうか」ではなく、「先に出願・登録した人」**が権利を得ます。
たとえ自分が最初に考案し、販売していた商品の名称であっても、登録を怠れば後から別人に権利を奪われる可能性があります。これは、特にECサイトでの取引が拡大する現代において、深刻なリスクとなっています。現在は、TV、SNSで話題となるとすぐ、ECサイトで「売切れ」なんてことはよくあります。
4. ECサイト特有の商標リスク
ECサイトで商品を販売する場合、商標未登録だと以下のようなリスクがあります。
- 模倣品が出回っても差止請求できない
- 商標を登録した第三者から「侵害者」とされる
- アカウント停止や販売停止措置を受ける可能性
- 顧客から見れば「どちらが本物か分からない」状態になる
特にECモール(Amazon、楽天など)では、商標権を根拠に販売停止措置が取られるケースが多く、実務的にも商標登録は不可欠です。
5. 「不正競争防止法」で守れる場合もあるが…
商標を登録していなくても、一定の場合は不正競争防止法で模倣行為を排除できる可能性があります。
例えば、周知な商品表示を不正に使用して混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号)は禁止されています。
しかし、この場合は「周知性」や「混同の有無」を立証しなければならず、時間も費用もかかります。
一方で、商標権があれば登録証1枚で権利を示せるため、はるかに実務的です。
6. 商標登録していなかったときの「先使用権」とは?
商標法には、**「先使用権」(商標法第32条)**という規定があります。
これは、他人が商標登録をしてしまった後でも、以下の要件を満たす場合には、引き続きその商標を使えるという権利です。
先使用権が認められる条件
- 他人の商標出願より前に使用していた
- 日本国内で使用していた
- 不正競争の目的がない
- 出願前から、需要者の間に広く認識されていた
- 継続して使用している
ただし、先使用権には制限があります。
- 使用できる範囲は、もともと使っていた商品・地域に限られる
- 登録商標権者から混同防止の請求を受ける可能性がある
7. 先使用権の難しさと今後の動向
一見すると「先に使っていれば守られるのでは?」と思われるかもしれません。
しかし実務では、先使用権が認められるハードルは極めて高いのが現状です。
- 「需要者の間に広く認識されていたか」を証明する必要がある
- 証拠資料(販売実績、広告資料、顧客アンケートなど)が求められる
- 認められるかどうかは裁判例に左右される
つまり、先使用権は“最後の防波堤”のような制度ですが、実際にどの程度の使用実績で要件が満たされるのかも、
事例によるところが大きいのです。
→ したがって、トラブルを未然に防ぐためには、やはり商標登録をしておくのが最善策です。
8. 教訓と実務的な対応策 ― 商標登録の重要性
- 商品やサービスに名前を付けたら、早めに商標登録を検討する
- 特に、ECサイトでの販売を考えているような商品で、ブランド性が強い事業では必須
- 登録費用は特許に比べて安く、更新すれば長期にわたってブランドを守れる
9. まとめ ― ECサイトでこそ商標登録が必須
商標を登録していなかったために、せっかくの人気商品が逆に「他人のもの」とされてしまう事態が実際に起こっています。
「自分が考えた名前だから」「先に使っているから大丈夫」という思い込みは危険です。商標制度は先願主義が原則であり、登録して初めて権利が発生します。
ECサイトで商品を販売している方は、ぜひ一度ご自身の商品名やブランド名について、商標登録の有無を確認してみてください。
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