1.職務発明規定がなぜ中小企業に必要か
職務発明規定は、中小企業が発明を正しく守り、従業員のモチベーションを高めるために欠かせない制度です。特に新しい技術や製品を開発する中小企業にとって、従業員が生み出す発明は大きな財産となります。ところが、多くの中小企業では「職務発明規定」をまだ整備していないのが現状です。規定がないまま発明が生まれると、思わぬトラブルに発展することもあります。今回は、なぜ職務発明規定が必要なのか、そのメリットを整理してみたいと思います。
2.職務発明とは?
「職務発明」とは、従業員が会社の業務範囲の中で仕事として行った発明をいいます。たとえば研究開発部門の社員が、新しい材料や製造方法を発見した場合、その発明は会社の業務に関連しているため「職務発明」に該当します。
特許を受ける権利は常に原始的には自然人である発明者に帰属するという考えがあります。ですから、職務発明は、かつては原則として「従業員に帰属」し、会社がその実施権を持つ仕組みでした。しかし法改正により、現在は「会社帰属」とすることも可能です。ただし、そのためにはあらかじめ社内規程で取り決めておく必要があります。つまり、規定がないと「誰のものか」が曖昧になり、紛争の火種となるのです。
特許庁:職務発明制度の概要
職務発明制度(特許庁)
3.職務発明規定がないと起きるトラブル
実際に過去には、大企業においても職務発明をめぐる大きな訴訟が起こりました。発明をした従業員が「正当な報酬を受けていない」と主張し、数十億円規模の請求に発展したケースもあります。
中小企業ではそこまで大きな金額にはならないかもしれません。それでも「発明の権利が会社のものなのか」「報奨をどう支払うのか」で従業員と揉めることは十分にあり得ます。
特にスタートアップ企業など、技術が事業の柱となっている場合には、発明をめぐる争いは会社存続に関わる深刻な問題となります。
4.職務発明規定を整えるメリット
4-1. 発明を受ける権利の帰属が明確になる
規定があれば、発明をしたときに「会社に帰属するのか」「従業員が権利を持つのか」が明確になります。従業員が退職してから「この発明は私のものだ」と言い出すリスクを減らせます。
4-2. 報奨制度で従業員のモチベーションが上がる
単に「会社のもの」として取り上げるのではなく、発明を生み出した従業員には適切な報奨を与えることが重要です。報奨の形は金銭に限らず、表彰や人事評価への反映などでも構いません。発明が正当に評価されることで、従業員は「もっと新しい技術を生み出そう」という意欲を持ちやすくなります。
4-3. 新規性喪失の例外規定の証明がスムーズに
特許出願においては「新規性」が大前提です。しかし、展示会や学会で発表した結果、自社の技術が公開されてしまうこともあります。その場合でも、特許法上の「新規性喪失の例外規定」を適用すれば出願が可能です。
ただし、その際には「誰が開示したか」を証明する必要があります。職務発明規定で「発明者と会社との関係」が明確になっていれば、この証明もスムーズに行うことができます。
4-4. 外部パートナーとの交渉にも有利
大学や共同研究先、委託先企業と技術をやり取りする場合も、発明の帰属が曖昧だと契約交渉が難航します。職務発明規定を整えておけば、自社の立場を明確にし、相手との信頼関係を築きやすくなります。
5.中小企業こそ職務発明規定が必要
「うちは大企業じゃないから大丈夫」と思われる方もいるかもしれません。しかし、中小企業やスタートアップほど、一つの発明が事業に与える影響は大きいものです。小さなトラブルでも、経営に与えるダメージは大きくなります。だからこそ、リスクを未然に防ぐためのルールづくりが不可欠なのです。
また、中小企業においては従業員数が多くありません。発明者一人ひとりのモチベーションが会社全体の研究開発力に直結します。職務発明規定を通じて「発明を正当に評価する文化」を築くことが、会社の競争力を高める第一歩になります。
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6.まとめ ― 職務発明規定が会社を守る
職務発明規定は、単なる法的な書類ではなく、
- 発明の権利関係を明確にする
- 従業員の意欲を高める
- 新規性喪失例外の証明を容易にする
- 外部との取引をスムーズにする
といった、多くのメリットをもたらします。職務発明規定がないままでは、せっかくの発明がトラブルの原因になりかねません。
中小企業だからこそ、早めにルールを整備し、発明を「会社の未来をつくる力」として最大限に活かしていただきたいと思います。
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